2025年5月18日の通常総会におきまして、日本透析医会の第5代会長に選任いただきました。日本透析医会は、1979年にその前身である都道府県透析医会連合会が発足して以来、50年近い歴史がある全国の透析医による職能団体です。その間、1987年の社団法人認可、2012年の公益社団法人への移行と、順調に発展を遂げてまいりました。長年にわたる本会の発展に尽力されてこられた歴代会長をはじめ、諸先生方のご尽力に深く敬意を表するとともに、その重積を担う事に身の引き締まる思いです。

 1960年代、救命医療として日本での普及が始まった透析治療は、数々の技術革新を経て、現在では日常生活に近い場でできる普遍的な治療となりました。その結果、日本の透析治療の成績は世界一と言われるに到り、また現在、日本の透析患者数は、2023年末で343,508人(日本透析医学会調べ)と、若干の減少傾向にあるものの、日本国民の約360人に一人が透析患者という状況にあります。慢性腎不全という決して稀ではない致死的な疾患に対するセーフティネットとしての透析医療の役割は、国民衛生の観点からも大きな意義があると考えております。

 その一方で、高齢化の進行と人口の偏在、国および医療保険の財政の悪化、就労人口の相対的不足など、医療が抱える深刻な問題の中で、高額な医療費を継続的に要し、施設血液透析の場合1回あたり最低4時間の治療とそれに伴う週3回の通院を要する、という特殊な性格を持つ透析治療は、多くの課題を抱えているのも事実です。

 日本透析医会は、このような厳しい状況の中でも、持続可能な透析医療提供体制を確立するのが、最も大きな役割であると認識しております。その役割を果たすために、関連学会および団体、行政と問題意識を共有し、連携をしていきたいと考えております。

日本の透析医療の成績は先進国最良であり、山間僻地に到る日本のほとんどの地域で透析治療を受けることが可能です。また透析医療は移植を除けば、現時点では唯一患者の社会復帰を可能にする臓器代替治療であり、実際社会復帰を果たしている透析患者は多数おられます。このような日本の透析医療に関わった先人達が築き上げてきたレガシーを、会員を始めとする多くの方々からご意見を頂きながら、今後も守り発展させていきたいと考えます。

 日本透析医会の主たる事業の一つとして、透析時災害対策があります。日本透析医会の災害対策事業の歴史は古く、1987年災害時救急透析医療小委員会が発足して以来、日本透析医会の主たる事業の一つとして位置づけてきました。1995年の阪神・淡路大震災以降は、行政と連携して対応するという形で事業を発展させてまいりました。

私は2011年の東日本大震災から中心的に透析医会の災害対策事業に携わり、2012年の公益法人化以降は、災害時透析医療対策委員会委員長として、平時における透析医療災害対策の整備と、災害発生時の医療者間および行政との情報共有を中心とした対応に携わってきました。これまでの災害時においては被災地域の透析医療者の献身的な努力により透析医療の確保がなされ、これまで災害時に透析医療が提供できないという事態はありませんでした。しかしながら、今後発生が予想される都市部の直下型地震や南海トラフを震源とするなどの巨大海溝型地震のような、広域災害に対する備えはまだ十分とは言えません。より一層の医療者と行政の連携、広域連携の強化など、大災害時にも透析医療が継続的に提供できる体制の整備を行っていきたいと考えております。

 最後に、これまで私は2003年から11期22年間、日本透析医会の執行役員として様々な課題に取り組んできましたが、今後は会長として、会員の皆様や関連団体、行政の方々と向き合い対話をしながら、更なる誠心誠意をこめて日本の透析医療がより良いものになるよう務めていく所存です。引き続きのご支援、ご指導を心よりお願い申し上げます。

 2025年5月18日

公益社団法人 日本透析医会
会長 山川 智之